今回はフェンダーテレキャスターのすり合わせの依頼です。
アメリカで購入してから日本でリフレットをしてもらっているとのこと。その時から全く調整せず今に至るという事で、最近は音が詰まるポジションがあり弾きにくいので、調整してほしいという依頼でした。
1971年製なので、十分ヴィンテージではないでしょうか。
見た目のヤれ具合も良いので、ナットだけピカピカなのも似合わないので、ナットを交換しないですり合わせだけで解決することにしました。
診断をしてみると、指板が微妙に波打ち、それにともないフレットの高さも少しバラバラになっていて、本来なら指板修正からリフレットという流れですが、強制的にフレット上だけ高さを揃えることにします。
やや順反りなので、ネックを外してロッドを少し回してみます。
しかし、そのロッドに手応えが……。もしや! と思い逆に回すと、すぐにネジがとれました。どうやらロッドは全く締め込まれていないようでした。
外した状態そのままで確認すると明らかなに逆反り。少し(45度)閉めると急に順反り。でも指板面はうねうね……。
これはなかなか面倒なネックです。
↑71年製の証。私より歳上です。
↑あらゆるところが雑。ラッカーなんだかポリなんだかわからないくらいクラックが入っており、傷もたくさん。でもそれがこのギターの魅力になっています。ある意味フェンダーらしいすてきな71年製テレキャスターです。
通常作業のようにネックを外してすり合わせをすると、弦のテンションをかけた時は7F〜12F付近が極端に弦が高く、ハイポジションでビタビタになるおかしなフレット高になってしまいます。
ということでStewMacの巨大な治具「Erlewine Neck Jig」の登場です。
イチからギターを製作する場合、この治具を使うことはないのですが、今回のように弦のテンションが掛かっていることが重要な場合、StewMacのすり合わせ棒「Fretbar Understring Leveler」と組み合わせて、かなり厳密にテンションを調整してすり合わせることになります。
↑めったに出番のない治具。でもないと困る。あると場所を取る。でも結局必要…。リペア専門なら絶対持っていたほうが良いですね。
今回のテレキャスはネックがほっておくと逆反り方向に行く癖があり、しかしネック自体が柔らかくロッドの力ですぐに曲がるという、言ってみればどうにもならないネックですが、0.10〜0.46の弦のテンションによってバランスを保ちネック自体をまっすぐにし、その上でフレットがフラットになり、しかし少しずつ順反りになりちょうど良いところに落ちつく……というのをゴールにするしかないようです。
ほんの少し(15度くらい)ロッドを締めてすこしだけ逆反り方向にテンションを掛けて、そこから弦を張り、なるべくまっすぐに近い状態にしてからすり合わせます。
StewMacのErlewine Neck Jigは、弦を張らないで弦をはった状態をシミュレーションできるのが売りなんですが、今回のネックがその状態を再現できません。ですが、すり合わせ作業のし易さというメリットがあるので、治具を使い作業を開始しました。
↑使いかたは…とても難しいです。
作業の様子はYoutubeの動画でご覧ください。
それ以外に、ブリッジの駒が錆びている、駒のネジが曲がっている、ガリがある、という不具合もありましたがひとつずつ解消していきました。
駒の高さをしっかり調整できるようにしてからナットの調整に入ります。
ナットは見事にバラバラで、1弦が0.09mm、2弦が0.12mm、3弦が0.11mm、4〜6弦が0.15mmとなっていました。これをすべて0.09mmに合わせました。
弦高は最終フレット上で約2mmにしましたが、これだと少し低すぎる印象なので、2.25mm~2.5mmと6弦に向かってすこしずつ高さを変えて調整しました。
ナットの溝の深さはそこまで攻めてませんが、これで十分弾きやすくなり、音のつまりは解消、バズも気にならないくらいになりました。
ということで、診断を下して方針を決めるまで大変でしたが、満足していただける仕上がりになりました。
今後も季節の変わり目でネックコンディションに変化があると思うので、弾きにくくなったらまたお持ちください。
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